あなたは子育てでどんな悩みを抱えていますか?
私たちが保護者セミナーで参加者の方の悩み事を聞いていると、頻出なものの1つが「子供が勉強嫌いで取り組んでくれない」というものです。
- 計算ドリルをたくさんやらせていたら、最近は「キライ!やりたくない!」と言うようになってしまいました。
- 勉強が終わったらゲームしていいよと約束すると、やっつけでただ解答を埋めるだけになってしまい悩んでいます。
- ふてくされた態度でだらだら宿題をやるせいで寝る時間も遅くなり、翌日朝もなかなか起きられず、見ていてイライラしてしまいます。
そういったご相談をくりかえし受けます。
早い子だと、小学校入学したばかりの1年生くらいで、すでにこういった重度の勉強嫌いになってしまっていたりします。
「できるようにさせなければ」という親の焦りが行き過ぎてしまって、子供を勉強嫌いにしてしまう。
これってとても悲しいことですよね?
確かに、ちゃんとやらせないと成長には繋がらない。でも、ちゃんとやらせようとすると嫌いになってしまうかもしれない。
親としては、成長してほしいし、好きにもなってほしい。
「一体どっちを優先したら良いのだろう?」
結局のところ、その二者択一に迫られるのが、悩みの根源なのです。
そして、「成長」を選択すると、最初に書いたようなお悩みが起こることが多いわけです。
そこで、保護者の皆さんに伝えたいことがあります。
先ほどの「どっちを優先したら…」という問いへの科学的な研究が出した答え。
それは、「ちゃんとやらせるよりも、まずは楽しませることの方が大事」ということです。
ただ好きだからといって、上達できるわけではありません。
自分の限界に挑む練習をしない限り、何事も上達はしないのです。
だから多くの人は、好きなことをやっていても全然うまくなりません。それは確かにその通りです。
しかし、好きでもないことはなおさら上達できるはずありません。
研究をし、計画を立て、練習に励み、練習を振り返る。
上達をするためにはやらなければいけないことはたくさんあります。
好きでもないのに、それらを続けることができますか?
残念ながら、勉強でも習い事でも、最初の段階では子供はまだ「なにがなんでも成績をあげたい」とか「絶対にうまくなりたい」とかは思っていません。
何年も先を見据えて、将来の目標を考えていたりもしません。
ただ楽しみたいだけです。
あのストイックで知られるイチローだって、最初はただ気楽に野球を楽しむ初心者だったはずなのです。
だから、はじめのうちは無理をさせずに、興味を持ったことをひたすら楽しんで、もっと興味がわくようにした方がよいのです。
心理学者のベンジャミン・ブルームは、科学・スポーツ・芸術などの分野において、世界で活躍する120人の人々と、その両親やコーチや教師たちにインタビューを行いました。
そういった研究により、学習の初期段階でもっとも望ましいのは、やさしくて面倒見のよい指導者を得ることだと明らかにしました。
やさしく面倒見の良い指導者とは
そのような指導者たちの最大の特長は、最初の学びを楽しく、満足感の得られるものにしたことでした。
学習の初期段階では、基礎的なことはほとんど遊びを通して身につけます。
学ぶというよりも、ゲームのようなものです。
また、その段階では、ある程度の自主性が尊重されることも大切です。
勉強や習い事の学習者を対象に行った長期的研究によって、威圧的な両親や教師は、子供のやる気を台無しにしてしまうことがわかっています。
一方、自分の好きなことを選ばせてもらえた子供は、ますます興味を持って取り組み、大きな成長を遂げるそうです。
プロスポーツ選手のように、一生の仕事として打ち込む確率も高くなります。
スポーツ心理学者のジャン・コティも、初期段階でのびのびと遊びを通して興味を持たせ、さらにその興味を深めておかないと、将来悲惨な結果を招く恐れがあることを突き止めました。
いきなり専門分野でみっちりトレーニングを受けた選手たちは、経験の浅い選手たちと競争した場合、最初のうちは明らかに有利です。
しかし、コティの研究では、そのような選手たちは負傷したり、燃え尽き症候群に陥ったりする確率が高いことがわかりました。
はじめはひとつの分野に絞らない方がいい?
逆に、子供のころから様々なスポーツをためしたあとでひとつの競技に的を絞ったプロのアスリートたちは、全体的に長期間にわたって成績が良いこともまた明らかになりました。
早い時期に様々なスポーツに触れることで、自分がどのスポーツに向いているかがわかりやすくなるのです。
また、さまざまなスポーツを試すことで、クロストレーニングの良い機会となり、筋肉を鍛えスキルを身につけるのに役立ちます。
それがのちに自分の専門分野で集中トレーニングを行うときに土台となるのです。
勉強もスポーツも楽しさを優先
これって成長の原理・原則ですから、いわゆる“勉強”においても同じことが言えると思っています。
低学年のうちからいきなり受験算数・国語に集中的に取り組むよりも、パズルをしたり読書をしたりプログラミングをしたり将棋をしたり、さまざまな頭を使う遊びをして知識や思考力の土台を鍛えた子の方が、全体的に長期的に伸びていく傾向があります。
そして未就学児に対しての習い事も、楽しみながら脳に様々な刺激を受けていた子の方が、お受験などで厳しく勉強をさせられ、勉強や習い事に対して後ろ向きな気持ちになってしまっている子よりも伸びていく傾向があります。
その中で「“勉強”が楽しい」と興味を深めた子は、ますます燃え尽きることなく伸びていきます。
もちろん、ただ成り行きに任せるだけでは、数ある選択肢のうち“勉強”をたまたま選んでくれる可能性はそう高くありません。
だから、そこに導くためには、親の励ましや、達成感を味わったり褒められて嬉しくなったりする経験を、意図的に作っていくことが必要です。
そして、ある程度の自由や自己選択も必要です。
確かに、少しはダメだしをされたり、間違いを直されたり、大変な練習に取り組んだりする必要もあります。
でも、この段階ではやりすぎには気を付けましょう。
はじめのうちにあまり厳しくすると、せっかく芽生えた興味をつぶしてしまいます。
一度そうなったら回復は困難で、場合によっては取り返しがつかないこともあります。
私たちも勉強嫌いになってしまってから来た子を迎え入れるととても苦労します。
正直に言えば立て直せなかったことも少なくはありません。
そうなってほしくはないですよね?
まとめ
6年生の受験直前期と、未就学児~4年生くらいのときでは、子供への適切な対応の方法は大きく異なります。
本人自身が「成長」を強く願うようになるまでは、楽しくさせることを優先した方が良い。
【最初に厳しくし過ぎると取り返しがつかなくなる】ということを、特に小さいお子さんの保護者の方は覚えておいてくださいね。
参考
ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける――意志力を使わずに自分を動かす』大和書房、2013年
アンジェラ・ダックワース『GRIT やりぬく力』ダイヤモンド社、2016年
アンダース・エリクソン『超一流になるのは才能か努力か?』文藝春秋、2016年